たのしい就職活動9日目
「顔も暗い、声も小さい、そんなんじゃあ何処の企業にも受かんないよ!」
講師は朝早く集まった僕らに罵声をかれこれ20分ほど浴びせていた。
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少林寺木人拳のつもりで巨大な建物に入ったが、どうやら違ったみたく、ここはつまり就職フルメタルジャケットであった。
朝一番の全員の表情・態度をことごとく否定した後、「なんで皆んなそんな暗い顔してるの!」という。
おいおい待ってくれ、反省の顔だこれは。なんて全員が思った言い訳も出来ぬまま、徴兵令で招かれた我ら兵士は黙ったままである。
間髪も入れず、違う講師が2人体制で現れる。
片方が誰かに似てる気がしたが別にもうこの際それはどうでも良い。
最初は名前を呼ばれ点呼である。
「○○さん」
「はい…」
「もっと出せる筈よ、○○さん」
「はい…」
「んーん、もっと、もっと出せる筈」
ここでは挨拶・号令・笑顔・返事・思考・人生観に至るまで全てを調教されていく。
始まって数分経ちふと後ろを見ると、
さきほどもっと声を出せる筈と散々いびられた女の子はもう姿が無かった。最初の戦死者である。
「あら、これG-SHOCKね…」
講師の目が光る。次の獲物は小太りの男性だ。
「はい、これは!母から贈り物で貰いました!
「そんなこと聞いてないの!」
という一連のやりとりがツボに入り笑いを押し殺した。
それからは永遠と、返事は大きくだとか、言葉遣いだとかを軍方式で注意されていく。
講習中、質問には率先して手を挙げることを強いられた。
ここは一つかましてやろうと答えがまとまっていなくてもガンガン手を挙げまくった僕は、大尉たちから一定の評価をもらった。しかし特に嬉しくはない。僕はマシンガンを乱れ打つことで自己防衛していただけなのだ。
そして誰に似ているのか気づく、片方が鬼龍院翔に似ている。やはりどうでも良かった。
最初の休憩時間、11時になる頃には戦友たちも顔が就職火薬で真っ黒になっていた。
満身創痍の僕たちには休み時間にも課題を与えられる。就活生とは本当にこんな軍隊みたいなメニューをこなしていたのかと、震える。
いや多分、おそらくしていないし。
お昼が終わりプレゼン講習。
ある問題をグループワークで3分以内に答えをまとめて、前に出てプレゼンをしろ。という任務。
同じグループの女がアイデアを出さない癖にOKサインをなかなか出さない曲者だったが、なんとかギリギリで答えを出し、まとめ発表をする。
不穏な空気を鬼龍院翔、じゃないほうが出す。
「みなさんこれじゃあ前に出て朗読しているだけだわ!もっとプレゼンをしてください!アイデアを出し合って!今のぜんっぜんつまんないわ!」
ちょっと待ってくれ。
3分間で答えを出してさらに演出面で面白くするなんて不可能だ。
時間を用意してたかのようにもう一回練り直させられる。
なるほど、不条理こそ社会だ。
そんなのを朝の9時から18時半までこなし、
帰路に着いた。
あと2日、戦場に赴かなければならない。
モチベの置き場がわからない。
水曜日のダウンタウン、
ダウンタウンクイズめちゃくちゃ面白かった。
研修終わったらご褒美にビジュアルバムを買おうか迷っているのであった。